日本一の里山”とも形容される
美しい景観を有する「ひょうご北摂」。
同時に、そこには地域伝統の農業や
里山文化を継承する昔ながらの生業(なりわい)も。
先人が培ってきたものを守り、育てる人がここにはいます。
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西谷地区の交流拠点『西谷ふれあい夢プラザ』。

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夏と秋に開園し多くの人が訪れる『宝塚ダリア園』。

ダリアジェンヌ

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ダリア農家&『ダリアジェンヌ』プロデューサー 中村 梓さん
地域の産業をもっと盛り上げていきたい。
宝塚市は2面性があって面白い土地。南北で特色が違う。南は、私が所属していた宝塚歌劇団がある場所。街も賑わいに溢れています。でも、そこからクルマで20分も走れば、宝塚の北部・西谷地区には、のどかな里山風景が広がります。

日本屈指のダリア産地が北摂にある。宝塚市上佐曽利(かみさそり)地区は、昭和初期からダリア栽培が始まった土地。だが、住民の高齢化などもあり、産業の存続が危ぶまれているのも、また事実。そんな中、希望ともいえる人材がUターンした。それが元・タカラジェンヌである中村梓さんだ。

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宝塚にも里山の風景があるんだと、驚かれることも多い。

ダリア農家に生まれた中村さんは、高校2年の時に宝塚歌劇団へ。7年間を歌劇団で過ごした後、「知らない土地でゼロからスタートを切りたい」と、一度は東京で介護福祉士を目指す。

しかし同時に、故郷への想いも強くなっていったと話す中村さん。「祖父母から旬の野菜が届くたびに、歌劇団時代、地元の方がたくさん見に来てくれたことを思い出しました。小さい頃はいつも祖父母と一緒だったので、ダリア農家のみなさんに育てられたようなもの。目を背けていたわけではないけれども、地元から遠のいている自分が恥ずかしくなって」。

そうして2014年、結婚を機に西谷地区に戻った中村さんは、現状を見て愕然とする。「可愛がってくれていた、おじいちゃんやおばあちゃんがいなくなり、地域も元気がなかった。自分が何とかしなきゃって」。ダリア農家の父母を手伝いつつ、地域のためにできることを探した中村さん。ある日、見つけたのは、堆(うずだか)く積まれた球根の山。「他産地が切り花を主としている中、西谷地区は球根の出荷が軸。一方で、廃棄品もたくさん出る。『もったいない』というのが第一印象でした」。植物繊維が豊富なダリアの球根の可能性に着目した中村さんは、商品化を模索。完成したのが「ダリアジェンヌ」だ。体に優しい美容商品で、家族みんなで使えるクリーム、洗顔料、石鹸が基本。さまざまなメディアでも取り上げられ、地域の期待を一身に背負う。 最近は、球根の掘り起こしや分球作業にも慣れてきたという中村さん。「無駄になっていた球根を活かし、農家さんに還元できるシステムづくりや、新たな商品の開発など、地域の産業を活性化し、地元に少しでも恩返しできたらうれしいです」。


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ハウスでは、シイタケ狩りも行っている。

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肉厚でみずみずしい原木シイタケ。

仲しい茸園

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川辺郡猪名川町木間生(こもう)字大道下16
☎072-768-0055
10:00~15:00(土曜・日曜は〜17:00
バーベキューは要予約で3月20日~11月30日)
休:無休(バーベキューは火曜休)
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『仲しい茸園』代表 仲 守さん
先人たちが培ってきた里山を、守り育てていきたい。
大阪や京都、神戸からも約1時間でアクセスできる、都会に近い田舎。街へ出て、ここへ帰ってきたら、本当にいいなって思います。山を見ても、新緑や紅葉が美しい。自然のままの森が残っている証拠。季節で変わっていく山を見るのが楽しいですね。

現在、市場に出回っているシイタケのほとんどは、人工的な菌床で育った菌床シイタケ。一方、ここ猪名川町にある『仲しい茸園』で行うのは原木シイタケだ。クヌギやナラの木を山から伐り出し、そこに菌を植え付け、自然の中で育てる。当地での原木シイタケは、『仲しい茸園』の初代の時代、昭和30年代ころから始まった。大消費地・大阪府に近い猪名川町の原木シイタケは、往時はそのおいしさもあり、高い評価を受けた。しかし、中国産や菌床シイタケの普及、また農家の高齢化などもあり、徐々に少なくなっていったという。2代目となる仲守さんも「今、この辺りでシイタケを専業としている農家さんは、2、3軒くらいですかね」と話す。原木シイタケの栽培は重労働であり、時間がかかる。森の中に、重い原木を人力で積み上げ、さらに菌を木の中全体に行き渡らせるために、定期的に向きを変える。しかも、収穫は菌を植え付けてから1年半後。「正直、しんどいですね(笑)。でも、使命感みたいなものがある。もともと北摂地域には炭焼きの文化があった。炭を作るということは山の木を伐るということ。人の手が入ることで、里山が適度に保たれる役目があった。続けられているのは、猪名川町の先人が培ってきた里山や木の文化を担っているという想いから。誰も山に入らなくなったら、この美しい景観もなくなってしまう」。

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採れたてが食べられるバーベキューも大好評。

『仲しい茸園』では原木シイタケのおいしさを知ってもらうために、33年ほど前から小売りを手がけ、当時造成されたニュータウンなどで販売した。28年ほど前に整備されたバーベキュー場は、シイタケ狩りにやってきたお客さんからの要望で始まった。「モリアオガエルやオオサンショウウオも生息する、猪名川の豊かな自然環境の中で育った原木シイタケは、とてもうまいと思う。地域を知るには、まずは食から。一度食べに来てください」。

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